DNA バーコーディングで学名が決まり、 新和名へつながった 沖縄のウミウシ 16 種

DNA バーコーディングで学名が決まり、 新和名へつながった 沖縄のウミウシ 16 種

2026年07月07日 ·

2026 年 7 月 6 日発売の『沖縄のウミウシ DNA 解析による最新の分類図鑑 1089 種』 (今川 2026) で提唱された 81 件の新和名のうち、 ここで紹介する 16 種は 既知種への紐付けが分子データで確定し、 新和名が問題なく提唱された種 にあたる。 内訳は、 形態だけでは見分けが難しく DNA バーコーディングが紐付けの決定打になった 5 種と、 DNA バーコーディングで参照配列と一致して種まで確定した 11 種。 沖縄産個体の採集は今川氏および千葉大学の研究グループが中心となって行い、 「世界のウミウシ」 もそのプロジェクトに参加している。 16 種いずれも 1965-2025 年に正式記載された種で、 日本初記録 / 沖縄初記録の主張は伴わない。

16 種

新和名 学名 SSWBP voucher
アカキミノウミウシ Catriona lucerna SSWBP172-25
ニライカナイウミウシ Ercolania annelyleorum SSWBP564-25
アワキヌハダウミウシ Gymnodoris bernardae SSWBP218-25
シブキキヌハダウミウシ Gymnodoris wanaporum SSWBP534-25
ヨウガンウミウシ Sclerodoris faninozi SSWBP705-26
イシタニミノウミウシ Phyllodesmium karenae SSWBP029-25
アオテンタスジミドリガイ Thuridilla bayeri SSWBP567-25
テンガンノミドリガイ Thuridilla ratna SSWBP062-25
シロネコウミウシ Pelagella albopunctata SSWBP708-26
オレンジツガルウミウシ Trapania kahel SSWBP150-25
ホルスタインウミウシ Trapania tamaraw SSWBP682-26
ホタルビイボウミウシ Phyllidia larryi SSWBP526-25
カナサンコヤナギウミウシ Janolus savinkini SSWBP236-25
フウリンブドウガイ Lamprohaminoea evelinae SSWBP241-25
ホムラミノウミウシ Coryphellina flamma SSWBP077-25
ギンナンウロコウミウシ Cyerce liliuokalaniae SSWBP580-25

DNA バーコーディングが紐付けの決定打になった 5 種

これら 5 種はそれぞれ複合体内に近縁種を抱えており、 写真や肉眼観察だけでは同属の別種と確定的に区別できない。 一方で COI 配列を取って GenBank の既知配列と照合すると、 5 種いずれもクリアな一致が出る。 ただしその「一致」 が指す解像度は種によって違う。

種解像度の 4 例

アカキミノウミウシ (Catriona lucerna) / アワキヌハダウミウシ (Gymnodoris bernardae) / シブキキヌハダウミウシ (Gymnodoris wanaporum) / ヨウガンウミウシ (Sclerodoris faninozi) は、 比較対象側に種ごとの参照配列が確立している例である。 写真同定で詰まる種が、 数百塩基の DNA 配列を取るだけで一気に種名まで届く、 という DNA バーコーディングの威力が効いた典型例。

アカキミノウミウシ Catriona lucerna
アカキミノウミウシ Catriona lucerna
アワキヌハダウミウシ Gymnodoris bernardae
アワキヌハダウミウシ Gymnodoris bernardae
シブキキヌハダウミウシ Gymnodoris wanaporum
シブキキヌハダウミウシ Gymnodoris wanaporum
ヨウガンウミウシ Sclerodoris faninozi
ヨウガンウミウシ Sclerodoris faninozi

ただし、 ここでの「参照配列」 は GenBank の種名ラベルがそのまま当たることと同義ではない。 原記載論文の標本リストと GenBank の個体識別番号を突き合わせて初めて種名に到達する例も含まれており、 DNA 同定解説 で扱った「ラベルではなく標本リストが同定の根拠」 の原則の適用例にあたる。

系統解像度の 1 例: ニライカナイウミウシ

ニライカナイウミウシ Ercolania annelyleorum
ニライカナイウミウシ Ercolania annelyleorum

ニライカナイウミウシ (Ercolania annelyleorum) は事情が異なる。 本種は原記載 (Wägele, Stemmer, Burghardt & Händeler, 2010) の段階から、 形態は同じまま同所共存する 2 系統のミトコンドリア DNA を含む隠蔽種分化の現場として 意図的に 1 種に束ねて 記載された。 原記載が GenBank に登録した 4 配列はすべて模式産地リザード島 (オーストラリア大堡礁) 由来だが、 系統 A (HQ380194 / HQ380195) と系統 B (HQ380196 / HQ380197) に 約 17% 差 で分かれている。

沖縄産 SSWBP564-25 の COI 658 bp は HQ380196 と 1 塩基も違わない (100% 一致) で、 系統 B の代表ハプロタイプを共有していた。 リザード島と沖縄でこの系統が広域に共有されている形である。

模式標本 (AM C.464067) の DNA は未公開のため、 国際命名規約上どちらの系統が狭義の本種に当たるかは未決。 現時点で本種を E. annelyleorum と同定することに分類学的不整合はないが、 将来 模式標本の DNA 解読や分類の再評価が起きた場合、 系統 B が別種として切り出される可能性は残る。 DNA バーコーディングは「狭義の種」 までは決めていないが、 形態が同じ 2 系統の識別 (系統 A と B の区別) は完全に機能しており、 隠蔽種複合体の片方の系統に紐付けてそこに新和名を当てた事例である。

DNA バーコーディングで種まで確定した 11 種

上の表のイシタニミノウミウシ以下 11 種はいずれも、 沖縄産個体の COI が GenBank の既知配列と種解像度で一致し、 同定が分子データで確定した。 形態でも見分けられる種を含むが、 隠蔽的で写真だけでは詰めにくい種もあり、 バーコーディングが紐付けの裏づけになった。

イシタニミノウミウシ Phyllodesmium karenae
イシタニミノウミウシ Phyllodesmium karenae
アオテンタスジミドリガイ Thuridilla bayeri
アオテンタスジミドリガイ Thuridilla bayeri
テンガンノミドリガイ Thuridilla ratna
テンガンノミドリガイ Thuridilla ratna
シロネコウミウシ Pelagella albopunctata
シロネコウミウシ Pelagella albopunctata
オレンジツガルウミウシ Trapania kahel
オレンジツガルウミウシ Trapania kahel
ホルスタインウミウシ Trapania tamaraw
ホルスタインウミウシ Trapania tamaraw
ホタルビイボウミウシ Phyllidia larryi
ホタルビイボウミウシ Phyllidia larryi
カナサンコヤナギウミウシ Janolus savinkini
カナサンコヤナギウミウシ Janolus savinkini
フウリンブドウガイ Lamprohaminoea evelinae
フウリンブドウガイ Lamprohaminoea evelinae
ホムラミノウミウシ Coryphellina flamma
ホムラミノウミウシ Coryphellina flamma
ギンナンウロコウミウシ Cyerce liliuokalaniae
ギンナンウロコウミウシ Cyerce liliuokalaniae

これらは DNA が同定に必須だったわけではないが、 バーコーディングで種までの紐付けが確定し、 後年の検証材料として配列が残る。 本書が DNA + 形態の両面から新和名提唱に踏み込めた範囲を示す例にあたる。

次回以降の記事予定

書籍

この記事が良かったら、 著者にチップを送れます。

この記事をチップで応援