マガタマモウミウシ Ercolania kencolesi Grzymbowski, Stemmer & Wagele, 2007
特徴
非常に小型の嚢舌類で、生体の体長は 4〜6 mm、餓状態では 3 mm 程度まで縮む。固定標本は 2.1〜2.3 mm。体は細長く、足は後方に向かって細まる。前足には切れ込みも前足触角もない。触角は長い指状 (digitiform) で、表面は平滑。眼は触角の根元のすぐ後ろ側方に位置する。心嚢部の隆起は目立たない。背側突起は棍棒状〜ソーセージ形で、背面に 1〜2 列で配列する。各列は内側に大きな突起、外側に小型の突起が交互に並ぶ。生時の体地色は鮮やかな緑色。これはマガタマモ Boergesenia forbesii の細胞内から食べ取った葉緑体が消化腺の枝に蓄えられているため。触角は緑色で先端は白色、中ほどに白色の輪状斑が入る。頭部全体が緑色で眼はほとんど目立たない。足の前縁は淡緑色〜白色を呈する。背側突起はより濃い緑色で先端側ほど暗く、亜先端に白色斑が並んで不完全なリングを作る。3 日ほど絶食させると体色は褐色を帯び、眼が目立つようになる。
分布
模式産地はオーストラリア・北クイーンズランド州 Lizard Island の Casuarina Beach (リザード島調査ステーション前の潮間帯下部、水深 1 m まで)。同じく北クイーンズランドの Hope Island (Loch 1989)、グアム島 (Carlson & Hoff 2003) からも記録があり、西太平洋熱帯域に分布する。種小名の由来
種小名 kencolesi はリザード島調査ステーションの長年の支援者であるオーストラリア人 Ken Coles 氏への献名。彼はステーションへの寄付を通じて多くの研究者の研究環境を整えてきた。補足
本種は緑藻マガタマモ Boergesenia forbesii の巨大な単細胞 (細胞 1 個が直径数 mm から 1 cm の管状) を寄主とする。動物は管状細胞の壁を歯舌で穿孔し、頭部から細胞内に侵入する。侵入後、内壁に沿って葉緑体層を吸い取り、続いて細胞質 (細胞液) を順次消化する。1 つの寄主細胞を消費し終えると、空になった細胞内に卵塊を 1〜2 個産み付け、別の寄主細胞へ移動する。卵塊は反時計回りに 2 巻半ほど巻いた直径 4〜5 mm の管状で、卵嚢は約 500 個含まれ、各嚢内には径 100 µm 前後の白色卵が 1 個入る。発生は浮遊期を経るプランクトトロフィー型。類似の細胞内寄主寄食はマガタマモ目 Struvea plumosa の細胞内に侵入する Ercolania endophytophaga Jensen, 1999 でも知られ、本種はその姉妹種的位置にある可能性が指摘されている。和名「マガタマモウミウシ」は寄主藻の和名 (マガタマモ) にちなむ。
References
- Ercolania kencolesi sp. nov., Grzymbowski Y., Stemmer K. & Wägele H. (2007). On a new Ercolania Trinchese, 1872 (Opisthobranchia, Sacoglossa, Limapontiidae) living within Boergesenia Feldmann, 1950 (Cladophorales), with notes on anatomy, histology and biology. Zootaxa. 1577: 3-16.
- マガタマモウミウシ(新称), 西田和記. (2024). ウミウシの生態観察図鑑. 誠文堂新光社.
本書に掲載されています
西田和記. (2024). ウミウシの生態観察図鑑. 誠文堂新光社.
誠文堂新光社
本書には Ercolania kencolesi の解説・写真が掲載されています。
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