クサモチアメフラシ Syphonota geographica (A. Adams & Reeve, 1850)
クサモチアメフラシとは
インド・西太平洋から地中海まで分布する中型のアメフラシで、白褐色の地に走る大きな緑色の網目模様と、白色の縁取り、足裏の鮮やかな黄色で見分ける。特徴
体長は最大 100 mm 程度。体地色は白褐色を基調に、体表全体に白色の細い線と点で織りなす複雑な網目模様が走り、その白色模様の縁を緑色や暗色が縁取る個体も多い。腹足の裏面は鮮やかな黄色を呈する。足の左側には膜状の突起が張り出し、右側にかぶさる。外套膜の後端は管状(サイフォン状)に長く伸び、これが種小名の由来となった。側足を使って遊泳する。分布
原記載時はインドネシア・ジャワ海(浮遊する褐藻塊の中)で得られた個体に基づき記載された。その後の記録はインド洋から西太平洋にかけて広く、南アフリカ、オーストラリア、ニューカレドニア、パプアニューギニア、インドネシア、フィリピン、日本、シンガポール、ドミニカなどから知られる。近年は紅海からスエズ運河を経て地中海東部にも侵入しており(レセプス移入種)、ギリシャやイタリア沿岸での記録がある。種小名の由来
種小名 geographica はラテン語で「地理学的な」「地図のような」の意で、体表に広がる白色の網目模様が地図のように見えることにちなむ。属名 Syphonota(原綴 Siphonotus)は外套膜後端のサイフォン状の管に由来する。補足
単型属の種で、海草 Halophila stipulacea(ウミヒルモ属の一種)をほぼ専食する。地中海への侵入は、宿主である H. stipulacea 自身が同じくレセプス移入種として地中海に定着したことに依存しており、食草の先行侵入が本種の後追い侵入の道を開いたとみられる。本種は食草由来のフラボノイドを内臓に蓄えて化学防御に転用することが分子化学的に示されている。近年の分子系統解析では、Aplysiidae 内の属レベル系統が解像度に乏しく、本種が Aplysia 属に含まれる可能性も指摘されており、属の独立性については今後の再検討が必要とされる。
References
- Siphonotus geographicus n. g., n. sp., Adams A. & Reeve L.A. (1850). The Zoology of the Voyage of H.M.S. Samarang; under the command of Captain Sir Edward Belcher, C.B., F.R.A.S., F.G.S., during the years 1843-1846. Mollusca. London: Reeve & Benham. x + 87 pp., 24 pls.
- クサモチアメフラシ, 生物學御研究所編. (1955). 相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉. 岩波書店.
- 高岡生物研究会. (2002). 日本海のウミウシ. 第2版.
- Aplysia属の一種, 殿塚孝昌. (2003). ウミウシガイドブック〈3〉. TBSブリタニカ.
- クサモチアメフラシ, 小野篤司. (2004). 沖縄のウミウシ. ラトルズ.
- Syphonota geographica, Klussmann-Kolb A. (2004). Phylogeny of the Aplysiidae (Gastropoda, Opisthobranchia) with new aspects of the evolution of seahares. Zoologica Scripta. 33(5): 439-462.
- Syphonota geographica, Mollo E., Gavagnin M., Carbone M., Castelluccio F., Pozone F., Roussis V., Templado J., Ghiselin M.T. & Cimino G. (2008). Factors promoting marine invasions: a chemoecological approach. Proceedings of the National Academy of Sciences USA. 105(12): 4582-4586.
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