チギレフシエラガイ Tomoberthella martensi (Pilsbry, 1896)
- Location
- 日本>沖縄>沖縄本島(本部・北部エリア)>石切(安和)
- Date
- 2015/04/11
- Size
- 40mm
- Depth
- 15.0m
- Water temperature
- 23.0℃
特徴
体は扁平な楕円形で、外套膜が腹足とえらの大部分を覆う。外套膜の前縁中央には深い切れ込みがあり、ここから触角が前背方に突き出す。外套膜は中央部・左右前側部・後部の 4 区画に分かれ、各区画の境界には「preformed shear zones」と呼ばれる脆弱帯が走る。刺激を受けると中央部を残して 3 区画が自切する独特の習性をもち、これが「チギレフシエラガイ (千切れ節鰓貝)」の和名の由来となっている。口幕は台形で大きく、外套膜前縁の幅を超える。触角は基部で左右が癒合し、ロール状に巻く。腹足前縁には顕著な粘液溝が走る。
えらは右体側に膜で付着し、滑らかな軸の上下にそれぞれ 11〜19 枚 (平均 14.4 枚) の羽状葉を備える。殻は外套膜中央部に内包される楕円形でやや膨らみ、薄く脆弱な石灰質で白色。固定標本では脱灰し、コンキオリン質の薄膜だけが残ることが多い。
体色には少なくとも 3 型が知られる。(1) 山吹色 (アンバー) の地色に多数のチョコレート褐色斑をもつ型、(2) 半透明の白っぽい地色に赤褐色の斑紋が散る型、(3) アンバー〜暗褐色の地色に小さな濃褐色斑をもつ型。生体は 11〜56 mm 程度で観察される。
分布
インド洋から太平洋にかけての熱帯〜亜熱帯域に広く分布する。模式産地はインド洋のモーリシャス。Willan 1984 によりマーシャル諸島など中部太平洋から再発見され、Gosliner and Bertsch 1988 は東太平洋 (メキシコ・パナマまで) から記録した。日本では坪川・Bolland 1991 が沖縄島と小笠原諸島父島から得た 18 個体を本種と同定し、初記録として報告した。サンゴ礁域の潮間帯から水深 60 m 付近の亜潮間帯まで生息する。種小名の由来
種小名 martensi はドイツの貝類学者 Eduard von Martens への献名。Martens は Möbius 1880 のモーリシャス海洋動物相報告中で本種を Pleurobranchus scutatus として記載したが、この名は Pleurobranchus scutatus Forbes, 1844 によって既占 (preoccupied) であった。Pilsbry 1896 は代替名として Gymnotoplax martensi を提唱し、原記載者 Martens の名を学名に残した。補足
海綿食性で、消化管内容物からは三軸または四軸の海綿骨片が確認されている (坪川・Bolland, 1991)。分類学的経歴は複雑で、Martens (in Möbius, 1880) の Pleurobranchus scutatus として記載されたのち、同名既占により Pilsbry 1896 が Gymnotoplax martensi に改称、その後 Berthella 属に置かれて長く Berthella martensi として扱われた。Moles et al. (2023, Zoological Journal of the Linnean Society) は背楯類全属レベルの分子系統解析に基づく分類体系の再編で本種を新属 Tomoberthella に移し、本種をその模式種に指定した。Berthella kaniae Sphon, 1972 はジュニアシノニムとして扱われている。
刺激による外套膜の自切と、4 区画に分かれた外套膜縁を縁取る色彩線は本種を識別する目印になるが、体色変異が大きいため色彩のみでの同定は難しい。
References
- Berthella martensi (Pilsbry, 1896) チギレフシエラガイ, 坪川涼子 & Bolland R.F. (1991). 日本新記録の背楯類 Berthella martensi (Pilsbry, 1896) チギレフシエラガイ (新称) について. Venus, Japanese Journal of Malacology. 50(3): 184-195.
- チギレフシエラガイ, 小野篤司. (1999). ウミウシガイドブック. TBSブリタニカ.
- チギレフシエラガイ, 殿塚孝昌. (2003). ウミウシガイドブック〈3〉. TBSブリタニカ.