ヤジリカンテンカメガイ Cymbulia sibogae Tesch, 1903
特徴
翼足類 (いわゆる「海の蝶」の仲間) に属する浮遊性の貝で、ふつうの巻貝のような石灰質の殻は持たず、代わりに透明で弾力のある軟骨様の「擬殻」を背負っている。擬殻は舟型で数条の棘列があり、片側の先端がとがって矢尻 (やじり) のような輪郭になる。擬殻長は最大 65 mm に達する大型の翼足類。左右の翼足は癒合して一枚の遊泳板となっており、中央縁にくびれが入る亜菱形で、その後端からは長い鞭状の付属糸が伸びる。この鞭状付属糸は本種を識別するうえで大きな目印となる。透明な擬殻のなかで内臓塊が暗色の核として透けて見える。分布
南大西洋からインド洋にかけて分布の中心があり、太平洋側では主に黒潮水域で普通に見られる。模式産地はインドネシアのバンダ海、Siboga 探検隊の採集地点 189a (南緯 2°22'、東経 126°46')。種小名の由来
種小名 sibogae はオランダ海軍艦艇 HNLMS Siboga の名前に由来し、本種の模式標本を採集したシボガ探検隊 (1899-1900 年) への献名。Siboga はスマトラ島西岸の港町シボルガにちなんだ艦名で、この船を使ってオランダの動物学者・水路学者らが当時のオランダ領東インド (現インドネシア海域) で大規模な海洋生物調査を行った。補足
雌性先熟の雌雄同体で、粘液の網を広げて微小なプランクトンを濾しとって食べる植物食性の浮遊生物。外洋性で陸近くで見かける機会は多くない。日本近海の同科他種とは擬殻の形で区別でき、カンテンカメガイ (Corolla ovata) やウチワカンテンカメガイ (Corolla spectabilis) の擬殻がスリッパ型であるのに対し、本種の擬殻は舟型で先端が鋭く尖る。模式標本はオランダのアムステルダム動物学博物館 (ZMAN、現ナチュラリス生物多様性センター) に保管されている。References
- Cymbulia sibogae n.sp., Tesch J.J. (1903). Vorläufige Mitteilung über die Thecosomata und Gymnosomata der Siboga-Expedition. Tijdschrift der Nederlandsche Dierkundige Vereeniging, ser. 2, 8(2): 111-117.
- ヤジリカンテンカメガイ Cymbulia sibogae Tesch, 1903, 奥谷喬司. (2016). わが国近海に見られる浮遊性巻貝類―VI. 有殻翼足類・ミジンウキマイマイ科及び擬有殻翼足類. うみうし通信, 93, 4–5.