フレリトゲアメフラシ Bursatella leachii Blainville, 1817
特徴
体長は最大150mmに達する大型のアメフラシ類。体表全体が分枝した樹枝状の長い突起と短い円錐状の突起で密に覆われ、ふさふさとした、もしくはぼろ布のような外観をしている。体地色は飴色から緑褐色・暗褐色まで変異に富み、淡褐色の細点と、黒色で縁取られた水色の眼状斑が散らばる。触角と口触手は体地色と同じ調子で、淡褐色の細点が入る。同じアメフラシ目でも Aplysia 属とは異なり、側足葉は癒合して背側で閉じており、外套腔とつながる小さな開口部だけを残す。このため遊泳能力をほとんど持たず、底生生活に特化している。分布
大西洋(西インド諸島、フロリダ、西アフリカ)、地中海、紅海、インド洋から西太平洋までの熱帯・亜熱帯域に広く分布し、日本では本州中部以南で見られる汎熱帯種。Bazzicalupo et al. 2020 の分子系統解析では、ハワイ諸島と東太平洋からは記録がない。インド・西太平洋では Bursatella ocelligera Bergh, 1902 (タイ・コーチャン島模式産地から復活) と同所共存し、両者は外見だけでは判別が難しいが、ペニスに大型の円錐状棘を多数備える点 (B. ocelligera は棘なし) で区別される。同論文は大西洋個体群とインド・太平洋個体群の遺伝的分化を認めつつも、アガラス海流のリーケージ (南アフリカ沖の暖水パッチ) を介して両者間の遺伝子流動が維持されてきたと推定している。模式産地は不明(Blainville 1817 自身が「産地は不明」と記している)。種小名の由来
種小名 leachii は、英国の動物学者 William Elford Leach(1791–1836)への献名。Leach は大英博物館に勤務し、甲殻類・軟体動物などを精力的に記載した博物学者で、彼に献名された生物は 100 種を超える。属名 Bursatella はラテン語の bursa(袋・財布)に縮小辞 -ella を付けた語で、ふくらんだ袋状の体型に由来する。補足
浅海の砂泥底や海藻場に生息し、藍藻・珪藻・有機砕屑物を主食とする草食性のアメフラシ。集団で出現することで知られ、特に夕方から夜間にかけて多数の個体が集まり、朝になると分散するという日周パターンが報告されている(Lowe & Turner, 1976; Paige, 1988)。地中海や紅海では一時的に大規模な集合が形成されることがある。刺激を受けると他のアメフラシ類と同様に紫色のインクを放出する。卵塊は緑色がかった長い紐状で、19 日ほどで幼生が変態する短い発生期間を持つ。Bazzicalupo et al. 2020 は分子系統解析により、Eales & Engel 1935 以来用いられてきた地理的亜種スキーム (B. leachii hirasei、B. leachii lacinulata、B. leachii pleii、B. leachii rosea、B. leachii savigniana、B. leachii guineensis) を支持しないとして却下し、これらをすべて B. leachii のシノニムとした。一方、B. leachii africana は同論文の前段階となる Bazzicalupo & Crocetta 2018 で独立種 Bursatella africana に分離されている。和名のフレリトゲアメフラシは、シノニムとなった Aclesia freeri Griffin, 1912 に対して与えられた名称に由来する。トゲアメフラシ表記を採用する文献もある。
References
- Bursatella, Blainville H.M.D. de (1817). Bursatelle, Bursatella. In: Cuvier F. (ed.) Dictionnaire des Sciences Naturelles. Vol. 5 (Supplément). Paris: F.G. Levrault. p. 138.
- ふれりとげあめふらし(新稱), 内田清之助ほか. (1927). 日本動物圖鑑. 北隆館.
- Bursatella leachii leachii, Eales N.B. & Engel H. (1935). The genus Bursatella de Blainville. Proceedings of the Malacological Society of London. 21(5): 279-303.
- フレリトゲアメフラシ, Baba K. (1949). Opisthobranchia of Sagami Bay collected by His Majesty the Emperor of Japan (相模湾産後鰓類図譜). Iwanami Shoten, Tokyo. 4+2+194+7 pp., pls. 1-50.
- フレリトゲアメフラシ, 高岡高等学校生物研究会(編). (1964). 富山湾産後鰓類図譜.
- Bursatella leachii pleii, Lowe E.F. & Turner R.L. (1976). Aggregation and trail-following in juvenile Bursatella leachii pleii. The Veliger. 19(2): 153-155.
- Bursatella leachii plei, Paige J.A. (1988). Biology, metamorphosis, and postlarval development of Bursatella leachii plei Rang (Gastropoda: Opisthobranchia). Bulletin of Marine Science. 42(1): 65-75.
- フレリトゲアメフラシ, 益田一. (1999). 海洋生物ガイドブック. 第2刷. 東海大学出版会.
- フレリトゲアメフラシ, 鈴木敬宇. (2000). ウミウシガイドブック〈2〉. TBSブリタニカ.
- トゲアメフラシ, 奥谷喬司. (2000). 日本近海産貝類図鑑. 東海大学出版会.
- トゲアメフラシ, 殿塚孝昌. (2003). ウミウシガイドブック〈3〉. TBSブリタニカ.
- Bursatella leachii leachii, Terrence Gosliner, Ángel Valdés and David Behrens. (2015). Nudibranch and Sea Slug Identification Indo-Pacific. New World Pubns Inc.
- Bursatella leachii, Bazzicalupo E., Crocetta F., Gosliner T.M., Berteaux-Lecellier V., Camacho-García Y.E., Chandran B.K.S. & Valdés Á. (2020). Molecular and morphological systematics of Bursatella leachii de Blainville, 1817 and Stylocheilus striatus Quoy & Gaimard, 1832 reveal cryptic diversity in pantropically distributed taxa (Mollusca
本書に掲載されています
Terrence Gosliner, Ángel Valdés and David Behrens. (2018). Nudibranch and Sea Slug Identification Indo-Pacific 2nd Edition. New World Pubns Inc.
New World Publications
本書には Bursatella leachii の解説・写真が掲載されています。
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