シミツキウミウシ Tayuva lilacina (A. A. Gould, 1852)
特徴
体長 3 1/3 インチ (約 8.5 cm)、幅 1 1/4 インチ (約 3.2 cm) のドーリス類。体はかなり大きく、やや角柱状で著しく細長く、前方は鈍く、後方はやや細る。地色はライラック (淡紫) で、中央に沿って薔薇色の色調を帯び、やや大きな濃色の斑紋がまだら状に入る。触角部の対側に角張った側方拡張があり、その後方にひだ状で淡黄褐色の縁帯が広がる。触角は小さく淡黄褐色、棍棒状で後方に反り返り、薄板状を呈する。鰓は背面のかなり後方に位置し、非常に大きく体幅より広い。鰓葉は 6 葉で各葉は三葉状を呈し、各小葉は深く、おそらく二重に切れ込みを示し、縁辺は黄色。腹面は黄白色で、ライラック色の細かい斑点と陰影がある。足は体長と同等の長さで、体幅の 3 分の 2 ほどの幅をもち、先端は丸まり、前縁の角は拡張しない。頭部は小さく丸まり、外套膜の下深くに位置する。原記載では「触角部の角張った側方拡張が三葉虫を思わせ、その後方にひだ状の縁帯があり、特に Acanthus の葉のような独特な鰓葉の形が際立つ」と注記された。分布
模式産地はハワイ諸島・オアフ島・ホノルル。Charles Wilkes 司令官の指揮する米国探検遠征隊 (1838〜1842) によって採集された個体に基づく。後年インド洋〜西太平洋〜中部太平洋から広く記録される。日本では転石下で観察される。種小名の由来
種小名 lilacina はラテン語化した形容詞で「ライラック色の、淡紫の」の意。原記載のラテン語診断 "lilacina maculis saturatioribus notata" にあるとおり、本種の地色がライラック (淡紫) を呈し、より濃色の斑紋が入ることに由来する。原記載書での見出しは "Doris Liacina" (印刷の OCR 上は "Liactna" と読まれる場合あり) であり、現在は "lilacina" の綴りで定着している。補足
原記載において Gould は Doris 属に置いた。後に Discodoris 属、さらに Marcus & Marcus 1970 による Tayuva 属に移された (author 表記の括弧書きはこの属移動を示す)。和名「シミツキウミウシ」は、かつて「ツヅレウミウシ」と同種とされていたが、再び別種として区別された経緯をもつ。Sebadoris fragilis (オオツヅレウミウシ) の幼体と外見が酷似し、識別には腹面の斑紋を確認する必要がある。「ツヅレウミウシ」の和名はもともと Sebadoris fragilis に与えられた可能性もある。References
- Doris lilacina n. sp., Gould A.A. (1852). Mollusca and Shells. United States Exploring Expedition during the years 1838, 1839, 1840, 1841, 1842, under the command of Charles Wilkes, U.S.N. Vol. 12. Boston: Gould & Lincoln. xv + 510 pp.
- ツヅレウミウシ, 生物學御研究所編. (1955). 相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉. 岩波書店.
- シミツキウミウシ(新称), 小野篤司. (2000). ウミウシガイドブック. 第2版. TBSブリタニカ.
- シミツキウミウシ(仮称) Discodoris lilacina, 鈴木敬宇. (2000). ウミウシガイドブック〈2〉. TBSブリタニカ.
- Discodoris sp.A, 殿塚孝昌. (2003). ウミウシガイドブック〈3〉. TBSブリタニカ.
- ツヅレウミウシ, 小野篤司. (2004). 沖縄のウミウシ. ラトルズ.
- DAYRAT B. (2006). A taxonomic revision of Paradoris sea slugs (Mollusca, Gastropoda, Nudibranchia, Doridina). Zoological Journal of the Linnean Society. 147(2): 125-238. https://doi.org/10.1111/j.1096-3642.2006.00219.x
- ツヅレウミウシ, 小野篤司 & 加藤昌一. (2009). ウミウシ. 誠文堂新光社.
- Discodoris lilacina, Terrence Gosliner, Ángel Valdés and David Behrens. (2015). Nudibranch and Sea Slug Identification Indo-Pacific. New World Pubns Inc.
- ツヅレウミウシ, 小野篤司 & 加藤昌一. (2020). 新版 ウミウシ. 誠文堂新光社.
本書に掲載されています
小野篤司 & 加藤昌一. (2020). 新版 ウミウシ. 誠文堂新光社.
誠文堂新光社
本書には Tayuva lilacina の解説・写真が掲載されています。
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