キイッポンウミウシがキサンボンな件
どう見てもキサンボンなのですが「キイッポンウミウシ」
— ここあの姉@海の宝石や (@umiushi_party, January 18, 2021)
黄色いラインが一本の子がいるので「キイッポンウミウシ」らしいけど…他の写真見てても 3 本の子の方が多い気がする…笑
ダイバーなら誰しも一度は引っかかる疑問。
キイッポンウミウシは「ウミウシガイドブック ― 沖縄・慶良間諸島の海から」(1999) で命名された和名で、当時の図鑑では学名が Chromodorididae sp. (未記載種扱い) として掲載されていた。ここがポイント。
2004 年、 小野篤司「沖縄のウミウシ — 沖縄本島から八重山諸島まで」(ラトルズ) で本種は Pectenodoris trilineata と同定される。 嘉比島の 2 個体を掲載し、「海外では正中線上の色帯以外に両触角の後部から鰓両側にいたる計 3 本の色帯を持つが、 本邦産の個体では 2 例とも橙黄色線 1 本である」と明記。 日本のキイッポンウミウシ = 1 本線型の P. trilineata、 という認識がここで確立する。
3 年後の 2007 年、 David Mullins が seaslugforum に Pectenodoris trilineata の色彩変異を写真投稿したスレッド (seaslugforum: find/21283) で、 Bill Rudman も 1 本線型の個体写真を返信に添えた。 1 本線でも trilineata とする扱いを国際的にも追認した格好。
種小名 trilineata は ラテン語 tri- (3 つの) + lineatus (線のある) の合成で、文字通り「3 本線の」を意味する。背中を縦に走る 3 本の黄色いラインから来ている命名。
属の方も変遷していて、原記載は 1850 年に A. Adams & Reeve の H.M.S. Samarang 報告で Doris trilineata として記録されたのが始まり。その後 Pectenodoris 属に移され、現在は Bertsch によるイロウミウシ亜科の上位分類整理を経て Mexichromis 属に組み替えられている。
つまり「3 本線の Mexichromis」という名前の種に対して、日本では「1 本だけのタイプ」しか見つからず、それに「キイッポン」という和名が付いた、というのが「キイッポンウミウシがキサンボンな件」の正体。
ただし本種を DNA で別種だと示した論文はまだ見たことがないので、今後別種に分割される可能性は十分ある。なお黄色 1 本タイプは日本だと南西諸島でしか見られず、逆に黄色 3 本タイプを日本で見ることはできない。地理的に分布の中心が違うので、種内変異とみなすか cryptic species (隠蔽種) として割るかは将来の課題。
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