ヤマトメリベ Melibe japonica Eliot, 1913
概要
体長が最大 70 cm に達する日本最大級のウミウシ。半透明の桃白色をした巨大な体が中層をふわりと漂い、頭部の前端を投網のように大きく広げて小型甲殻類などを丸ごと包み込むように捕食する。江戸期の博物書『大和本草』に記された幻の海獣「ムカデクジラ」の正体は本種ではないかとする説もあり、近年は水族館の展示や SNS の動画で広く話題になった。毒は持たず、触れても刺すような害はない。触ると柑橘類に似た爽やかな匂いを発するのが特徴で、これは捕食者忌避のための分泌物に由来すると考えられる。食用とされた記録はなく、寒天質に近い柔らかい体は食材としては利用されない。
日本沿岸 (本州太平洋岸から九州、対馬・隠岐諸島) を中心にインド・西太平洋に広く分布する。磯ではなく沖合の中層に多く、定置網に入ることが多い。多くのウミウシと違って活発に這い回らず、中層を漂って暮らす。よく似た熱帯種ムカデメリベ Melibe viridis とは過去にシノニム視された時期もあったが、近年の研究で外部形態と分子系統の両面から別種であることが確認された。
特徴
体長は最大 70 cm に達する大型のメリベ類。地色は半透明の桃白色で、体表全体に赤色〜桃色の小突起が散在する。背側突起は通常 6〜7 対 (個体により最大 10 対)、丸みを帯びた塊状で、表面には赤い色素を伴うイボ状突起が密に並ぶ。頭部は大きな頭巾に変化しており、縁には感覚乳頭が左右 2 列に並ぶ。頭巾を投網のように広げ、小型甲殻類などを捕食する。触角は小さく、後方に瘤状の突起を伴う。背側突起の間には、樹枝状突起が体軸に沿って不規則に並ぶ (大型個体で顕著)。
本種は活発に泳がず、海面近くの中層を漂うことが多い。捕食時には海底まで降りる行動も観察されている。背側突起は脱落しやすいが再生する。
分布
模式産地は静岡県沼津沿岸。インド・西太平洋に分布し、日本 (本州太平洋岸〜九州、対馬、隠岐諸島ほか)、韓国、パキスタン、オーストラリア (クイーンズランド) から記録される。種小名の由来
種小名 japonica はラテン語で「日本の」を意味し、模式産地の日本 (沼津) にちなむ。補足
水族館での飼育下では、ブラインシュリンプ幼生を捕食することが報告されている。References
- ヤマトメリベ, Baba K. (1949). Opisthobranchia of Sagami Bay collected by His Majesty the Emperor of Japan (相模湾産後鰓類図譜). Iwanami Shoten, Tokyo. 4+2+194+7 pp., pls. 1-50.
- ヤマトメリベ Melibe japonica Eliot, 1913, 馬場菊太郎 (1984). ヤマトメリベ Melibe japonica Eliot, 1913 の解剖(予報). 南紀生物 26(1): 67.
- Gosliner, T. M.; Smith, V. G. (2003). Systematic review and phylogenetic analysis of the nudibranch genus Melibe (Opisthobranchia: Dendronotacea) with descriptions of three new species. Proceedings of the California Academy of Sciences. 4(54): 302-356.
- ヤマトメリベ, 中野理枝. (2004). 本州のウミウシ. ラトルズ.
- ヤマトメリベ, 小野篤司. (2004). 沖縄のウミウシ. ラトルズ.
- Melibe japonica, Nakano R., Tokuda G. & Yorifuji M. (2024). Redescription of Melibe japonica (Nudibranchia: Dendronotoidea: Tethydidae) and its phylogenetic relationship in the genus. Molluscan Research. 44(3): 267-277. https://doi.org/10.1080/13235818.2024.2367267
季節性
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